第4章 銀魂短編・SS
秋の終わりに
秋も深まり、ハロウィンムードはとうに過ぎて、
クリスマスに気分が急ぐこの日頃
風も冷たく日の入りも早いため、手足はすぐに冷え込む
それだけでも気が滅入るというのに歩いている道は細く、人気のないひとり道。
はあっ、と吐く息は白く、手袋のないかじかんだ手を温める。
手を擦り合わせて温かさを保とうとするが、所詮は間に合わせ
当然温まるはずもなく、諦めて再び足を進める
さあ、そろそろマイホームが見えてきたぞ、といったところで異変は起きた
…異変というほど大袈裟なものでもないのだが。
男が、ひとりの男が道を塞いでいた。
大男というほど大きくはないし、小柄でもない、いわば普通というやつだ。
であればいくら細い路地とはいえども、横を通り抜けるだけのスペースはある
ならば通り抜けてしまえばいいだけのことなのだが。
そうできない理由がある。
ひとつは知人であること
彼は地球人ではなく夜兎族という人種で、並ではない力の持ち主だということ
……ふ、こうして客観的に形状を述べるのもなかなか面白いものだが
一番の理由が、知人を通り越して恋人だということだ。
何故こうも遠回しに語り出したかなぞには大して意味はない。
男は。彼は。
阿伏兎は、私の姿を見るなりニタリと口角をあげ、大きく手を振った。
ここで無視することにも躊躇はないのだが後々のことを考えれば得策ではないだろう。
そう、だから。しかたなく。
仕方なく、彼の胸に思い切り飛び込んだ。
飛び込んだ彼の胸は思いの外暖かく、小さな私の体はすっぽりと収まってしまった
当然私は彼に抱き締められた形になるわけで、
彼の表情はおろか、顔さえ拝めないのだけれど。
私には、彼の、いつもの、いやらしくて優しい笑顔が見えたのだから。
それで、充分だと思った。