第2章 花咲くまにまに短編・SS
泡沫の夢
夢を見た
燈太が側で笑っている
これはいつもの事だ
夢の中でさえ変わらずに側に居てくれるとた。
俺が、守らなければ…
だが、何故だ?
何故、その周りに沢山の人が同じように笑っている?
和助さんに倉間さん、白玖さん
宝良に清次郎に清菊さんに鈴音
そして、あいつ。
俺の一番近くで笑っているあいつ。
…やめろ。
何故夢の中にさえ出てくるんだ
俺に笑いかけるな。
息が出来ない、苦しい。
手を伸ばしてしまいたくなる。
もちろん、払い退けるためだ。
触れたい訳じゃない。
手が出ないならと、夢の中のあいつを睨みつける。
が、変わらずに笑いかける。
それどころか、一層可笑しそうに笑い声をあげて。
それに応じるように周りの笑い声も反響する。
とたも、笑いながらあいつの手を取ってはしゃぎだす。
ダメだ、とた。
そいつと仲良くなんてするんじゃない。
そいつは、俺ととたをこんな目に合わせたやつの娘だ。
どうせろくな事にはならない。
信じてはいけない。
気を許してはいけない。
…な、んで、俺は、泣いているんだ。
あいつは、あいつは俺の敵だろう?
いつの間にか、夢から覚めて、薄暗い天井がぼんやりと見える。
夢の中だけで止んだはずの涙は尚も頬を伝い、流れる。
あいつの、名前の事を考えると止まらない。
俺を、どうするつもりなんだ。
こんな境遇にまで貶めて嗤い飛ばして。
頼むから、とただけにはこんな思いはさせないでくれと祈るように目をとじる。
相変わらずとたは俺の側で笑い合いながらあいつといる。
ああ、そうか。
俺だけが勝手に苦しんでいたのか。
とたは、俺にこの事を告げるために夢を見せたのか。
あいつの見せた夢ともいえる。
夢は時に真実を告げる鏡になると言うが。
俺は、あいつを信じていいのか?
どうしたって憎悪に突き動かされて今迄を生きてきた過去は消えない。
復讐だって終わっちゃいない。
許しきれない。
けど、それでも、複雑な心情を乗り越えた場所に、
とたの幸せが、俺の幸せなんかというやつがあるのなら。
一度だけ、信じられるだろうか。