第1章 Fate短編・SS
星の涙
最初に見えたのはどこか悲しそうな驚いた顔だった。
自分の主が女であること自体には自分に流れてくる聖杯の情報から
これが聖杯戦争であることと同時に知って疑問は抱かなかった。
ただ一つ懸念があるとすれば生ある時よりの呪い、愛の黒子のことだ。
自身の招いた事とはいえこの黒子によって召喚へ応じた本来の目的が叶わぬとあらば、
非常に無念であり最早最悪辞退も考えられた。
黒子のこと、召喚経緯での手違いもあって初めのうちはギクシャクしていた。
どうやら本来は主の姉ソラウの旦那である、
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが召喚するはずであったらしい。
だがケイネスは見た目では判断できないが、
よほどソラウの事を好いていたのか、
他意のない不慮な事故として主である名前を咎める事はなかった。
しばらく戦争である事を忘れアーチボルト宅での日々を過ごすうちに、
わだかまりも消え仲良く話を交えられるまでになった。
…気がしていた。
己の黒子を見くびっていたというよりは、日々の過程で忘れていた。
自分を見つめるソラウの目を見るまでは。
珍しく主には黒子が効いていないようで好意こそ感じていたが、
それ以上のものはなく例えるなら友愛や家族愛のような穏やかなもので、
居心地がよく周りに目がいかなかったのも気づきが遅れた原因だ。
ソラウの目は盲目な愛そのものだった。
それは紛れもなく愛の黒子の呪いの効果であり、
ソラウに至っては知っていて尚も縋り付いているように見えた。
主には聖杯戦争やサーヴァントの知識がなく、
基本的に聖杯戦争としての指示や命令をしていたのはケイネスで、
令呪を使うような事があれば主を介する必要があった。
結果的に外見は衛宮切嗣とセイバーとアイリスフィールと同じような戦術になったが、
こちらは文字通り主はハリボテ、
指揮者の嫁の心は呪いによって意に反して己の元へと、
不利なんて言葉で片ずけられない状況に陥っていた。
負の連鎖に呪いとあってはろくな事がないとは知っていても、
自身でどうにかなる問題でないのがこの手の厄介な点であって、
自分が人でないサーヴァントという存在を持ってしても運命には抗えないのだろうか。
加えて悪い予感とは当たるもので、ついに望まない未来がやってきた。