第8章 レイー強がり通しのキス我慢ー
「ほら、お前も手回せよ」
「…」
「なにやってんだよ、早くしねぇと一ヶ月間離れらんねぇんだぞ?」
「…」
「あーもう!ほら!」
レイにくっついたアリスは声を発するどころか顔もあげない。話しかけてもほとんど反応がない。話をしたい。けど時間が過ぎていくことでレイは焦り半ば強引に腕を回させた。
「…っ、」
5分後やっと身体は離れたが今度はお互いの手が繋がれる。
「まじかよ…」
レイは大きく溜息を吐き出すと繋がれた手を離すためのルールに従うようにアリスの手を引いて歩き始めた。
"二人っきりになる"
「来いよ。おれの部屋行ってから話そうぜ。」
「…」
アリスからの反応はない。ただ歩くのはやめないのでついてくる気はあるのか、と思ってみるも繋がれたままの手を思い出しふっと苦笑いする。ついてくるしかねぇんだよな、きっと。
下を向いたままのアリスを自室へ招き入れると自然に手が離れる。アリスはそれと同時に少し後ろへ後ずさった。
「…そんな怯えてんなって。な?」
一度も目が合わない。前髪が顔にかかっていてほとんど顔も見えない。レイはその態度が納得いかなかったのかほんの少し声のトーンを落とした。
そこからレイはアリスとの距離を縮めようと何度も何度も話しかける。でも帰ってくる反応は頷くか首をふる程度でまだ一度も声すら聞けていない。
ーーずっと、待っていたのに
物心ついた時から聞かされてた話。運命の相手なんて柄じゃないがいつかもし自分だけのアリスが現れたら…そんな事を考えたのは一度や二度ではない。想像の中の自分だけのアリスにレイは何度も何度も優しく愛を囁いた。初めて来る知らない世界に怯えてしまわないように、怖くないように。俺が守ってあげられたら。
そんな事を夢見ていたのに目の前に現れたのは何を話しかけても答えてさえくれないアリス。
でもこいつが俺の運命の相手ーー
俺だけのアリスーー
胸に引っかかる感情をどうすることもできず、それでも自分だけのアリスが目の前にいるという現実への喜びは身体を震わすほどで、どうにかして自分と向かい合ってもらいたいという気持ちと、どうしてそんな態度なんだよ、という不貞腐れた気持ちがモヤモヤとぶつかっていた。
ここからレイとアリスの一ヶ月がはじまる。