第38章 所詮私はアリ一匹なんだ
どれくらい寝ていたのか分からない。
長い夢を見たような、
でも、意識はあった?
それさえ曖昧な記憶では判断が出来ない。
目を開けると、天井の高い部屋。
私はベットにいた。
「………」
そうだ。全て思い出した。
「ロー…ッ」
上体を起こし無意識に彼の名を呼んだ。
広い室内と冷たい空気がその呟きをただ虚しくさせるだけなのに。
腰の拳銃は無いし、左手の指輪も外されている。
……捕まってしまったんだ。私は
顔を掌で覆った。
「なんて馬鹿なの…」
己の失態を悔いる。
「失礼するよ」
来訪者の訪れにエリナは鋭い視線を向ける。
コツコツと響く靴音に乗せてやって来たのは白衣を着た男だった。
牛乳瓶の底のような眼鏡を掛け直し、瞳孔の開いた瞳で私を見ている。
好奇心と強い興味を抱いたその奇怪な表情が気持ち悪くて目を逸らす。
「はじめまして。ロードナイト・エリナ。君は頭が良いからこの状況、もう分かってるよね?」
嘲笑う男をエリナはただ睨みつけている。
「海軍本部の一室ってとこかしら」
「ふふふ…抵抗する気はないようだな。気分はどうだい?」
「最悪」
「それは失敬。何か飲むか?」
「いらない」
目も合わせず眈々と答えるエリナへ男は小さく溜め息をついた。
「あんた誰?」
エリナの低い声が部屋に響く。
「私は政府の科学者。ベガパンク」
その返答にエリナの瞳は僅かに見開いた。
「へぇ、あんたが…」
天才頭脳を持つと呼ばれる海軍科学者のトップ。
Dr.ベガパンク。
想像していたよりもまともに会話の出来る男のようだが、たまに垣間見せるほくそ笑む表情と女のように白い肌がおぞましくて鳥肌が立つ。