第10章 near &far
しばらく走ると見覚えのあるレストランに着いた。
『お待ちしておりました。青峰様』
コートを預けて座席を引いてもらって席に着いた。
今のあたしの服装でも全然浮いてない。
「番号流出させちまってごめん…会って謝りたかった」
「ほんとに気にしないで。青峰君が悪いなんて少しも思ってないよ」
「ただでさえ忙しいお前に余計な手間取らせちまうだろ」
「どっちにしてもスマホ変えようと思ってたから全然大丈夫!」
これはホント。仕事用のスマホの充電の持ちも悪いし、プライベートのはこの間落っことしたせいで画面が割れてる上に帰国してからずっと同じだから2台とも変えようと思ってた
「今ライアンが相手側と話しつけてる。番号の変更で費用負担があったらちゃんとこっちに回せよ」
「はーい。ねぇもうこの話終わりにして違う話したい。せっかくおいしいもの食べれるのに青峰君がそんな顔してたらヤダ」
「そんな顔ってどんな顔だよ」
「うーん…怒られた子供みたいな顔?」
青峰君は普段どう見ても大人にしか見えないんだけど、今は悪いことをして怒られた子供みたいにシュンってしてる。
あたしといるときくらい面倒なことから解放されてほしい。
「なんだそりゃ。でもお前も前回ここきた時そんな顔してたな」
「だってあれは、隠し事がばれちゃったから怒ってるのかと思ったの」
「あ、隠し事で思い出した。なんでお前あんとき突然電話切ったんだよ」
ゲッ……なんで今それ思い出すの?
忘れてると思ったから言わなかったのに。
とぼけよ…
「え?いつ?」
ダメ笑っちゃいそう。心当たりがありすぎて口元がぴくぴくする。
食前酒を飲んでグラスで口元を隠そうとするけど青峰君の視線を感じで目を上げたらいつもの意地悪な顔であたしの目を見てる。
「心当たりあんだろ?」
「んー?ないよ」
「じゃあなんでそんな笑いこらえてんだよ」って青峰君が笑いだした。
「だって思い出すと笑っちゃうんだもん」
「思い出しただろ?なんで切ったんだよ?」
あ…またやっちゃった。
「なんでかな?手が触っちゃったのかも」
もうここで目を合わせたら絶対言い逃れできない。
辰也と電話したときは正直に言おうって思ってたけど恥ずかしすぎてごまかしたい。
だって好きな人に“かっこいい”とか言っちゃったんだもん。恥ずかしいに決まってるじゃん!