第8章 それぞれの場所
あたし、クライアントに何させてるんだろ…最低
「気使わせてごめんね。ありがたく頂いてもいいですか?」
「もちろん!じゃ明日よろしくッス。なんかあった時は好きな人の声が1番の薬ッスよ!」
そう言って暖かい差し入れを手渡してくれた
黄瀬くんからもらったおかゆを食べて、ゆっくり飲み物をのんでさっきの黄瀬くんの言葉を思い出す
好きな人の声って…あたしなら青峰君だよね……
いつでもしていいって言ってくれたけど、シーズン中だし…どしよ
迷惑は掛けたくない。
でも今日はどうしてもあの優しい声が聞きたい
5コールだけ。それで出なかったら諦める。
用事がないのに電話するのは初めてで緊張して手が震えた。
好きな人に電話するのってこんなに緊張するんだ…
コールが始まったと思ったらあっという間に通話に切り替わった。
「!もちっ…もしもし」
あまりに早く電話に出られたから心の準備が出来てなくて舌を噛んだ。
「ははは!もち?」
「噛んじゃった。べろ痛い…」
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
「お前から電話なんて初めてだな」
「ダメ…だった?」
「いや、全然。すげー嬉しい。どうした?」
電話したのが迷惑だったらどうしようって思ってたからホッとした。それにすっごく優しい声で、どうした?って聞かれて泣きそうになってしまう。
「特に用事があったんじゃないの…」
ほぼ初対面の人に彼氏いるか聞かれて怖くなって逃げ出して青峰君の声が聞きたかったなんて言えない。
「そうか。北海道どうだ?」
「寒い。すっごく寒いの。寒い以外何もない」
「ははは!寒い言い過ぎだ」
「本当に寒いの。もう天変地異だよ」
「暖かくして寝ろよ」
「うん。青峰君も」
「みさき」
「ん?」
「無理すんなよ」
あ、もう無理。
突然いつもよりもずっと優しい声で言われて、さっき堪えたはずの涙が流れてしまう
泣いてることを悟られたくなくて深く息を吸って「うん」とだけ返事をした。
「ほら、もうベッド入れ。明け方から撮影だろ?」
スケジュールを言ってないのに知ってたからどうしてか聞きたかったけど泣いてるのがバレたくなくて長く話せなくて大人しくベッドに入ることにした
「ん…おやすみなさい」
「おやすみ」
さっきまで恐怖に支配されていたのが嘘みたいに心が落ち着いて目を閉じることができた