第7章 近づく距離
お話しながら用意をしてロビーに降りると、ロータリーに長い車が停まっていてペニンシュラのマークが付いている。
「飲み物テイクアウトしてくか。あの車じゃドライブスルー寄れねぇし」
「車用意してくれたの?」
「疲れてんだからゆっくり乗れた方がいいだろ」
「ありがとう」
タクシーでも全然疲れないのに、気遣って優しくして貰えるのが嬉しい。
『行ってらっしゃいませ』
『数日戻らないからお掃除は今日だけお願い。チップはベッドサイドのライトスタンドのところに置いてあるって清掃担当の方に伝えて』
『かしこまりました』
ロビーに留守を伝えて、飲み物をテイクアウトするためにロビーのカフェに寄った。
「ここは私が。もうフルカスタムで頼んでもらっていいからね!」
「ははは!ここカスタマイズねぇだろ」
「メニューに書いてないだけでやってくれるの」
このカフェは宿泊者ならメニューにないカスタマイズも受けてくれる。
少し前に泊まった時、ちょっと甘いものが食べたくて紅茶にアイスを乗せてもらったことがある。
「マジで?」
「うん」
「黒須は何飲む?」
「あたしはね、ダージリンにバニラオイルをちょっと入れてもらう」
バニラオイルは不思議なオイルで、ほかのオイルみたいに浮いたままにはならずに紅茶になじんですごくいい香りがする。
バニラの香りってリラックスできて大好きだから、お休みの日の朝は良くこれを飲む。
「うまそー。同じのにする」
「いいの?もっと色々つけていいんだよ?」
「同じのがいい」
青峰君はコーヒーにすると思ってたのに、同じのがいいって言われたのがなんだか嬉しくてふわふわした気持ちになる。
決めたものをオーダーしてあたしが払う気満々でカードを用意してたのに、青峰君がキャッシャーを塞いで立ってお会計を済ませてしまった。
『いい一日を』
『そっちもな』
オーダーしたものを青峰君が受け取ると、店員さんが満面の笑みで見送ってくれた。
「あたしが払うって言ったのに!」
「あ、聞いてなかったわ」
ねぇうそ。
絶対うそ。
気づいてなかったらキャッシャーであんなディフェンスみたいな立ち方しないし笑ってるじゃん。
「ありがとう。いただきます」
一緒に車に乗ると、座るとこが沢山あったけど青峰くんは隣に座ってくれた。