第25章 起憶
「オブザーバーとしてメンバーに入ることは認めても、メイクの現場チーフは当社の専属アーティストがやるべきだって意見があって、当然といえば当然なんだけどね。でも、専属よりも上手だってみんなが認めている人がそこにいるのに、あえて専属を使うなんて商品価値を下げるだけじゃない?」
言われてみればそうかもしれないけれど、専属を使った方がコスト的にも社内的にもメリットが大きいのに…
それにチーフがあたしを推したことで、役員からよく思われなくなってしまったんじゃないかってことが頭をよぎった。
「役員たちを納得させるのは楽じゃなかったけど、やった甲斐はあった」
「チーフの立場は大丈夫だったんですか…?」
「現時点でよく思ってない人はもちろんいる。でもプロモーションが完成した時、その意見を覆す自信はあるの」
確信したように、キラキラと輝く目を向けてくれるチーフは、本当にあたしのメイクとしての腕を買ってくれているんだって思えた。
期待されることを怖いと思う時期もあった
期待がプレッシャーになって逃げたくなる時もあった
でも今は、期待されることが嬉しくて、それに応えることがあたしのメイクとしての存在価値なんだと思えるようになってきた。
「必ずそうなるように、最後までしっかりやらせていただきます」
誰と仕事をしても自分がやるべきことは少しも変わらない
「それでは午後の撮影に向けて、メイクチームの全体ミーティングを始めます」
どんな状況でも、100%の仕上がりでカメラの前に送り出す。
あたしにできることはそれだけしかない
期待をしてくれた人に応えるには、それ以外の方法は何もない
カレンやサラが何かを企んで今の態度でいるとしても、あたしはいつも通り仕事をこなす。