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最愛 【黒子のバスケ】

第25章 起憶


もし開いた先にカレンがいたら?

もし開いた先にサラがいたら?


あたし…何されるか分からない



怖い


押せない




やっとたどり着いたはずのエレベーターホールなのに、あたしはそのボタンが押せなくて
あまりの恐怖に、気付いた時にはさっき歩いてきた通路を全速力で戻っていた






『どうかなさいましたか!?』



ホテルの通路をこんな風に走る人なんて、きっと子供でもいない


丁度すれ違ったペントハウス専用のバトラーが驚いたようにあたしに声をかけた




『…あ、いえっ…ごめんなさい……何でもないの…』

『ペントハウスにお戻りになるようでしたら、お荷物をお手伝い致します』

『…ありがとう……』


走るなとは言わないけど、あたしを一人にしたらまた走ると思われてるんだろうな…

いくら仕事でペントハウスを借り切っているとはいえ、あまりにも非常識な振る舞いだったことは言うまでもない


『…すみません……』

『こちらこそ、お急ぎだったのに引き留めてしまい申し訳ございませんでした』

にこやかに笑顔を向けて、あたしの歩幅に合わせてくれるバトラーに急いでいた訳じゃないとは言えなくて、少しだけ頭を下げた。


『もし、何か不都合やご不快な点が少しでもございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ。ご移動の際はいつでもお荷物をお手伝いいたします』


きっと彼女はあたしが急いでいたんじゃないことはわかってた。

さっきよりもゆっくりと歩いてくれる彼女は、あたしに呼吸を整える時間を与えてくれているようだった。



『ありがとう』


ペントハウスの前に到着して、専用のキーで解錠して扉を開けてくれた彼女から荷物を受け取って部屋に入ると、さつきと美緒が軽食をつまみながらあたしに手を振ってくれた

「おかえり。てか…さっき行ったのにもう戻ったの⁇休憩した⁇」

「あ…控室行こうかと思ったんだけど、やっぱこっち戻ったの」

「みさき、なんかあるならちゃんと言って」


この二人にはきっと一生隠し事はできない

さっき戻る最中に何度も深呼吸をして気分を落ち着かせたはずなのに、少しの変化でもこの二人には伝わってしまう。



「……ちょっと、カレンが不気味で……」

アクターの悪口なんて何を考えているんだと言われても、もう一人で抱えていられなかった。




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