第7章 近づく距離
ロスバゲで身軽とはいえ小柄な黒須には荷物が多いように見えて、手荷物を素早く取り上げたけど小さいブランドの袋は持たせてくれなかった。
メイク道具は仕事のもんだから触られたくねぇって思うだろうから触らなかったけど、その袋は気になった。
なんか大事なもんでも入ってんのか?
男はいねぇって火神は言ってたけど火神が知らねぇだけとか…ねぇよな…?
いや、火神にやるとか?
けどあいつ、誕生日は前倒しで祝ってもらったとか言ってた。
誕生日プレゼントにもらったとか言ってイカしたキーケース持ってやがって…
チッ…黒須に祝ってもらうとかムカつく
まぁでも今一緒にいんのは俺だし黒須は火神を男だと思ってねぇ…らしい
それに買い物に誘う口実はできた
ロスバゲならよっぽど運が悪くなきゃ見つからねぇことはねぇけど、今日中にってのは無理だから、どうしても着替えは買わなきゃいけねぇだろ?
しかもタキシードを受け取らなくていいっつーことは次来るのも理由を探さなくていい。
すげぇツイてる。
買物のついでに俺のサングラスも一緒に選んでもらいたくて誘ったら、俺の予定を気にしてくれてたけどせっかく会えんのにほかの予定なんか入れるかよ。
一緒にいてぇから誘ってんだって気づけよ
取り敢えず俺も黒須もチェックインして荷物を置いちまおうと思ってホテルを聞くと偶然にも同じだった
無数にホテルがあるこのNYでたまたま同じところなんてそうあることじゃねぇ
神なんて信じちゃいねぇけど今日だけは信じられそうだ
ハンプトンに向けて車を出そうとすると日差しがすげぇまぶしくて、サングラスがなくて思わず顔をしかめたら、黒須がさっきのブランドの袋を俺に差し出してくれた。
目を泳がせて顔が赤くて遠慮がちに差し出される袋と小さく話す声
なんでこのタイミングなのかちょっと笑えたけど、あの紙袋は他の誰でもなく俺の為に用意してくれたものだったってことがすげぇ嬉しかった。
しかもさつきから聞いて誕生日のプレゼントとして用意してくれたらしい
さつきの寄越すプレゼントはいつもふざけたもんだけど今年はいい仕事したぜ