第1章 知らない
その日は夕立だった。
「オレ傘持ってねぇんだけど。」
「雨降ってるじゃん〜濡れるのヤダ〜」
靴箱ではいろんな言葉が交わされていた。
俺も傘は持っていなかった。
女の子の傘に入れてもらえたらいいのにな。
ま、そんな相手いないけど。
俺はしぶしぶ雨の中歩き出した。
しばらくして、公園の近くまで来た。
すると、目に止まったのは女の子。
制服からすると、同じ学校である。
なんで、立ち止まってるんだろう。
雨に濡れるってのに。
するとその女の子は上を向いた。
頬から耳へ、雨の雫が流れていく。
なんだか目を引いて、俺は思わず足を止めていた。
雨はだんだん弱くなってきていた。
すると突如、その女の子がこちらを向いたのだった。
とても美しかった。
美人だとか、モデルのようなスタイルだとか、そんなことではない。
雨に濡れた、その女の子が、その仕草が、美しく見えたのだった。
理由はわからない。
俺は言葉を失って、その光景に見入っていた。
こんなの、知らない。
初めてだった。
女の子が顔をそむけ、歩き始めたのはすぐのことであったが、俺にはとても長く、何時間にも感じられた。