第19章 林檎が落ちた
ついに計画の当日である誕生日。
エルヴィンが用意したプレゼントやケーキ、料理を楽しんで入浴も済ませ、二人でリビングで寛いでいた。
「……お父さん」
「ん?どうした」
「あの……ね、」
意を決する。
「私……お父さん……が、好きなの。親としてじゃなくて……男性として……」
嫌われてしまうかもしれない。気持ち悪がられてしまうかもしれない。
「中学生の時からずっと、お父さんが大好きだった」
エルヴィンを見て言い放った。
表情は変わらず、少し時間が経過してエルヴィンは漸く言葉を紡いだ。
「それは……思春期に稀にあることだ。親子の愛情と、異性への愛情、それを勘違いして起」
「勘違いじゃないよ!!私……私は成人してる!今だって……好きなんてもんじゃない、愛してる、本当に……お父さんとっ……と、……えっちしたいって、考えるし……っ」
涙が溢れ出した。
こんなことまで言うつもりは無かったが、つい勢いで口走ってしまう。黙るエルヴィンにユリアは立ち上がり、自らの服に手を掛けて脱ぐ。
「ユリア!?やめなさい!」
「やめない!お父さんが私の気持ちを本気だって分かってくれるまで……!」
ユリアは服を脱ぎ捨て、下着のままソファーに座るエルヴィンに跨ってキスをした。後戻りは、出来ない。
エルヴィンが強く掴んできて引き離し、ソファーに押し倒される形になった。荒い息遣いの男が自分を見下ろしている。
「ユリア、俺達は……“親子”だ。正真正銘、血の繋がった親子だ。親子では性行為も結婚もできない……!」
力強い眼光は、叱る時の父の眼差しであった。
ユリアは胸が苦しくて痛くなる。
「っう、でも……私っ……それでも……お父さんが大好きなの……!」
ああ、頭に酸素が行かない。こんなに泣いたのはお母さんが病院で息を引き取った瞬間を見た時だ。ソファーの更に下に埋もれていくような感覚に襲われる。
こんな話をして、ただの親子で居られるはずが……ない。
ユリアはエルヴィンを押し退けて服をまとめて持ち、二階の自室へ駆け上がった。
後ろで名前を呼ばれた。止まらずに部屋に入ってベッドに伏せる。