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「明日香河」「巻向の」

第1章 オセロ


アイマスクを取り、10秒迷ってから携帯を取り出し、発信ボタンを押した。
6コール目で、聞き慣れた声が聞こえた。
「総悟、どうしたの?」
「あぁ、ちょっとな」
「ん?」
「いや、なぁ、お前さぁ」
「うん?」
「俺が正義の味方のお巡りさんから、指名手配犯になったらどうする?」
「…はぁ?何よ急に」
電話の向こうで、が大きな眼を更にパチクリさせている顔が浮かぶ。
「いや、別に。ちょっと聞きたくなっただけでさぁ」
「ん~そうねぇ。もしそうなったらねぇ…」
アイマスクを着け直す。世界はまた姿を消す。
「そうなったら、私も一緒に逃げる!」
「は?」
「だから、一緒に逃げるの。ほら、あの映画、ボニーとクラウドみたいに。あ、でもあれって最後死んじゃうんだっけ?ん~でも良いや。どこまでも一緒に行ってあげる」
「…おめー、なんか楽しんでるだろぃ」
「えー何よ。だいたい総悟が急に変な事言うからじゃない」
頬を膨らませているだろうの声に、思わず笑ってしまう。
無邪気なのか、怖いもの知らずなのか。
まぁ、いっか。
「」
「何よ」
「明日、空けてるだろ?」
「うん。総悟が空けとけって言ったんじゃない」
「パンケーキ食いに行かねぇか?最近、かぶき町に出来た店、人気あるんだろぃ」
「えっ、何でそんな事知ってるの?しかもそこ、行きたいと思ってたの」
「この星のお巡り舐めんな。それに、の考えなんて単純だからすぐ分かるんでさぁ」
「何よそれ」
「約束しやしょうぜ。明日、デートでぃ」
「…うん!」
声だけでも、ジャンプでもしそうなほど嬉しそうなのが伝わり、にやけてしまうのが止められねぇ。
やっぱり、血まみれで刀振り回すより、さっきのバカップルみてぇに、好きな女と手を繋いで、くそ甘ぇケーキでも食ってる方が良いだろ。きっとそれも、悪党も同じで。
なら、いつかオセロがひっくり返っても、手を繋いで一緒に走ってくれる相手がいるのなら、指名手配犯も、そんなに悪いもんじゃねぇかもな。
電話を切ってアイマスクを取ったら、秋空がやけに綺麗に見えた。
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