第1章 私の先輩は素敵なのです!
ボールは私の脚に直撃しました。
すっごく痛くて泣きました。野球のボールって固いんですね。
ベソベソしていたら、女の人が私にかけ寄ってきました。
「大丈夫!?いま保健の先生呼びに行ってるから、すぐ来てくれるからね!」
女の人はしゃがんで私の顔をのぞきこむと、涙を優しくぬぐってくれました。あの柔らかい指の感触は、今でも忘れられません。私の脳内では純白の鳩がポッポーと舞い踊り、白銀の鐘が大きく鳴り響きました。
「ごめんね。本当に。痛かったよね」
優しく笑いながら、保健の先生がくるまでの間ずっと私の頭を撫でてくれました。あったかい手でした。いい匂いもした気がします。
「本当にごめんね、怖い目にあわせて。でも、野球を嫌いにならないでくれると嬉しいな」
その声は凛としていて、そうまるで静かな竹やぶの中に響きわたる鈴の音、みたいな。きっと知的な女性なんだろうなあって、そんな感じのする落ち着いた声でした。
そして女の人は、野球のユニフォームを着ていました。そうなのです、女の人は女子野球部の部員だったのです。
「今日は見に来てくれてありがとう。私、桃浜っていうの。学校のことでわからないことがあったら、いつでも頼ってくれていいからね」
桃浜先輩の笑顔は春のぽかぽかした日差しを受けて、それはそれは美しく輝いていて…。
その日私は、青アザのできた脚を引きずりながら、女子野球部に入部届を出したのでした。