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小さな恋のパフューム【黒尾鉄朗】

第1章 ローテンポだって悪くない



告白って…。
心の準備もねぇのにできるかっての。
大体、春高行きが決まったばっかだ。
改めて気合い入れねぇとって時に、他事考えてる場合じゃない。


そのタイミングは、今日じゃねぇよ…。


頭の中でそんなことを考えながら、天宮が待っているはずの場所に辿り着いた。


「あれ?いない…」


さっきまで座っていた天宮の姿がない。

まさか、また変な男に…!?



「黒尾くーん、ここだよー」


焦って辺りを見回した時、呑気な声が俺を呼んだ。
手にはコンビニのビニール袋をぶら下げて、こちらに向かって歩いてくる。


「コラ!ここに居なさいって言ったでしょ!またナンパされたらどうすんの!」

「えぇ!?そんなお母さんみたいな怒り方しなくても…。それに"また"とかないよ!ナンパされたのなんて、今日が初めてだし!」

「…へぇ、どうりで。変な断り方してたもんな」

「酷い!怖かったのに!もうコレ、あげないからね!」

脹れっ面する天宮は、白いビニール袋を目の前に掲げた。

「何?」

「肉まん。下のコンビニで買ってきたの。お腹空いてない?」

「めっちゃ減ってる…」

「よかった!ちょっと質素だけど、お祝いしよ?冷めないうちに」

天宮に促され、二人でベンチに腰掛ける。
試合に参加していた選手たちの大半は帰ってしまったようで、周りに人気はない。

買ってきてくれた肉まんに、あったかい緑茶。
空腹に染み渡るそれを味わいつつ、今日の試合のことを取りとめもなく話した。
あの時のプレーは…とか、ルールとか、天宮がバレーに興味をもってくれてることも嬉しくて…


これだけで、今は充分。
今日は最高の誕生日だ。



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