第1章 ローテンポだって悪くない
「………え。………マ、ジで?」
「うん…」
いよいよ真っ赤になった天宮は、今度は手で両頬を隠してしまう。
天宮も、俺を―――?
夢かな…。
いやいや、俺の顔もかなり熱い。
夢じゃない…。
「…天宮、俺の彼女になってくれる?」
「はい…」
恥ずかしそうにしながらも、頷いてくれる天宮。
俺の片想いは
18歳になるとともに
両想いへと変わった―――。
約束どおり、天宮を送るため体育館を後にする俺たち。
並んで歩くことにはまだ慣れない。
すぐそこにある、小さな天宮の手。
繋いでいいものか迷う行き場のない俺の手は、脚の横でフラフラ揺れている。
「さっき会った時から思ってたんだけどさ…」
「なぁに?」
「……可愛い。今日の……、小雪」
こんなこと口にするのも名前で呼ぶのも、これが初めて。
うっわ、照れる…。
「…ほんと?ありがとう…」
「うん…全部、似合ってる」
明らかにぎこちない距離感。
これ、すれ違う人たちに付き合いたてホヤホヤだってわかっちまうんじゃねーか?
「鉄朗くんは、いつもすっごくカッコいいよ」
……チョット。
それ、ヤバイんですけど…!
目と目が合えば、唇を結んで笑い、また俯く。
「……サン…キュ」
おいおい。
挑発上手の黒尾クンはどこ行った…?
むしろ、俺の方が翻弄されてる…。
「……」
その時ふいに指先にぶつかる、何か。
ひんやりとした小雪の手だ。
勇気を奮い立たせ、俺の手でしっかりと包み込んだ。
「手、冷てぇな…」
「鉄朗くんの手は、あったかいね…」
「そ?…じゃあ、いつも繋いどく?あったまるだろ…?」
「…それって、冬だけってこと?」
「いや…。春も夏も秋も。ずっと…」
他のカップルがどうとかは知らねぇけど。
俺たちはこんな風に、手を取って足並みを揃えながら歩いていけばいいんじゃねぇのかな。
ゆっくり、ゆっくり。
な、小雪?
【 end 】