第6章 帰城後から帰城に
「瑠璃、入るぞ」
光秀が徳利と盃をもって入ってくる。
「酒の肴に琴の余興は飽きたんじゃないですか?」
開口一番追い払う言葉を投じた瑠璃だったが、
さして気にも止めず飄々と近づいてくる光秀。
「まぁ、そう言わず、付き合え。
今日が最後だ」
「? 最後って…?」
瑠璃は怪訝そうに光秀を見上げ、
小首を傾げる。
そんな瑠璃の横にスルリと腰を下ろして
光秀が続ける。
「銃の可能性をみるのは少し先にして、
新しい種を飛ばしたので、
安土に向けて発つ事にした」
意味深な言葉を含ませて光秀が話す。
「いつ?」
「明日にでも」
「明日……。
そんな急に?何で?」
瑠璃が眉を下げて悲しそうに、光秀を見る。
「今生の別れでは無いだろう。
そんな顔をするな。 離れ難くなるぞ」
ククと笑い、光秀は瑠璃の頭を撫でる。
「今生の別れで無くても、寂しくはなりますよ。
光秀様と話すのは楽しかったから」
「そう言う女はお前位だ。
まだまだ、仔猫といったところだが」
盃を傾けながら、細められた金色の目が
図るように瑠璃を見る。
「仔猫ですか?」
「あぁ、女狐にはなりきれてないな」
「女狐……女狐……⁉︎
光秀様‼︎
私は、男を騙したりする悪い女じゃありませんよ!」
瑠璃が抗議の声を上げると、
光秀が愉快そうに笑い声を上げる。
「だから、そう言った。
まだまだ、仔猫だと。
フハハハハハ」
赤くなった顔を隠して瑠璃がフルフルと肩を震わせる。