第6章 [つ] つよがりの先に
“日曜日の夜に帰ります”
それだけを置き手紙に残して私は家を出た。
まだ薄暗い駅のホーム、吐く息は白く冷たい風がホームを吹き抜けていく。自分勝手な決断をした後で不安な気持ちと後ろめたさが顔を覗かせ、きゅっと痛んだ胸に手を当てて始発の新幹線をアナウンスする声に耳を傾ける。
行く先を案内をする僅かな時間でもこの非日常すぎる出来事に慣れていない心を落ち着かせるには丁度良い。
私がここにいる理由は所謂マリッジブルーってやつだ。
プロポーズをくれた賑やかな夏が終わって、過ごしやすい季節には穏やかな時間が流れていく、でもそれはあっという間の事。暗くなる空と冷たさを増す風に不安な気持ちがひとつ、またひとつと零れていく。幸せの絶頂のはずなのに次から次へと不安が押し寄せて微かな自信は奪われていった。
だけど鉄朗から逃げたかった訳じゃない。ただ鉄朗といるとどんどん不安な気持ちが押し寄せて苦しくて…、このままじゃ駄目だってそんな危機感があった。
静けさを感じる11月はそんな焦りや寂しさを一緒に運んできて、自分の気持ちまで暗闇に沈む前に…、一度リセットすることが必要だとそう思ったの。
ホームを冷たい風が吹き抜けていく。真新しい空気を吸い込んでは心を落ち着かせて、東の空が青白く明るくなっていくのを見つめながら置いてきた恋人を想う。
何にも知らない鉄朗は今頃、私の代わりに置いてきたぬいぐるみを抱いて寝てるだろうな。
抱き寄せられる度に触れる寝癖がこそばゆくて、無防備な寝顔が浮かんではつい口角が緩んでしまう。周りにはまだ人は少なかったけどバレないようにとマフラーにそっと顔を埋めた。