第5章 [て] 天に梔子-くちなし-....R18
顔を上げた黒尾が照れ臭そうにはにかむ。
その顔は反則だ、と茉莉は頬を赤らめた。食えない笑顔を振り撒いてこそ黒尾鉄朗というものなのに、これ以上無駄に可愛くならないでほしい。心臓が縮みに縮んでぺしゃんこになってしまうじゃないか。
直視できずに、茉莉から離れ立ち上がる黒尾を視界の端で追いかける。
「んじゃあさ、プレゼント、明日茉莉が俺の弁当作ってきてくれるのはどー?」
眼前に差し伸べられた掌。
もう迷わずに。恐れずに。
「うん、いいよ」
「え、まじ?」
「私まともに料理したことないけどそれでもよければ」
「む…? でも、ほらお前器用だしやれば出来ちゃいます的な」
「そういえばこの間カップラーメン爆発してびっくりしたんだよね」
「え、意味わかんないんですが」
「お水入れて三分電子レンジで」
「あーうん、やっぱ遠慮するわ」
「でも大丈夫だと思うよ」
「なんでそこポジティブ?」
密やかな恋をこの場所に閉じ込めるのは今日で最後だ。
地を踏みしめて深呼吸をし、茉莉は制服のリボンをきつく結んだ。
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