第5章 [て] 天に梔子-くちなし-....R18
腰の後ろで捕らわれた両手首がキリ、と痛む。
それでも、黒尾鉄朗の濃やかな体温と息遣いを探り当てた一瞬、刺激を遥かに上回るほどの快楽が茉莉の中心をごっそりと抉った。
ぐっ、と大きく開いた肩に背中の筋肉が存分伸びて、鎖骨の辺りが息苦しい。肺が綺麗に膨らまないイメージが脳裏に閃き、消える。
「いーんちょー、こっち向いて?」
「…っ」
この体勢で振り返れというのか。既に白旗をあげている反応を見ればそれが可能であるかどうかわかるだろうはずなのに、このひとは。
表情を一層歪ませ、茉莉は声にならない声を発した。
柔軟であるとはとても言い難い身体なのだ。
日々バレーボールで筋肉を駆使している黒尾とはそのしなやかさに天と地ほどの差があるのだから、これ以上無理を言うなとひと思いに黒尾の要求を一蹴してしまいたくなる衝動に駆られてしまう。
けれど、下手に抗う理由もない…と口を噤んだ。
そして、そんな茉莉の心情を黒尾も知悉している。
茉莉は拒絶をため息に変え、声音の代わりに喉から吐いた息を震わせた。
再び鼻から空気を吸い込み、口から緩やかに吐き出す。副交感神経うんぬん、心身をリラックスさせるためには吐き出す息が大事なのである。なんちゃらかんちゃら。
健康オタクの姉が毎晩ストレッチをしながら一人リビングの片隅で唱えていた言葉がふと頭を過り、(たぶん姉も専門的なことはわかっていない)姉の誘いに応じていれば今頃少しは自分の身体も違っただろうか…と考える。
「て、つろ、名前」
「いーんちょーじゃイヤですか」
「名前が、いい…っ」
吐息まじりの哀願を吹き付け、茉莉は壊れかけた首振りのオルゴール人形のように背後へと首を捻った。
「あー…悪い。やっぱ辛いよなこの体勢」
ぎこちなく振り向いた茉莉の顔を見た途端、黒尾が微かに眉をひそめ詫びる。
振り向けたといっても茉莉が黒尾の表情を拝めたのはほんの僅かで、既に茉莉の瞳は正面に広がる窓越しの空へと向けられていた。
同じように、黒尾も一度だけ枠組みの天を眺める。
「もう、だい、じょうぶだから…っ、キスしたい、鉄朗…っ」
「……初っぱなから煽ってくんなよ」
11月の夕刻の図書室に訪れるのは
薄紫と静寂。