第2章 [く] クロ猫と傘と恋....R18
「クロ、帰らないの?」
「あ~…夜の街が呼んでますので…」
部活終わり
幼馴染の孤爪研磨に
ヘラリと嘘くさい笑いを見せて
汗にまみれたTシャツを脱いで
携帯をチェックする
アドレス帳の中には女の名前が
特徴と一緒に登録されている
「また?
…ご飯食べに来る?
今日、母さんがサンマ焼くって…」
「大丈夫ですぅ~
飯場には困ってないからねェ。
親父が出張から帰るまで
気ままな野良猫生活なんだから
邪魔しないでクダサイ」
「クロ…」
「じゃあな~
ゲームで夜ふかししてんなよ~」
研磨の声を遮って背中を丸め
部室を出る
「今日は誰にすっかな…」
飯が美味いとか
アレが巧いとか
登録された電話帳を眺めて
あまり乗らない気分のギアを
無理矢理上げて
【ナナちゃん(飯上手)】
携帯の画面を擦る
「もしもーし?
ナナちゃーん?
ヒマですかァ?」
相手にこだわりはない
強いていえば
腹減りだから
猫なで声を出して甘えりゃ
大抵成功なんだけど
〈クロくん?
今日残業でさー…〉
「ざァんねん。
んじゃあ、またヒマな時ねー」
今日は不調で
飯美味な寝床は全滅。
かと言って家に帰る気にもなれなくて
ガードレールに腰を掛けて
大きなため息を吐く
それに釣られる様に
ポツポツと雨が降って来た
「ゲッ…マジかよ…」
もちろん傘なんか持ってなくて
大粒になる雨粒に
自慢のトサカ頭は力を失くして行く
家に…帰ってもなァ
一人寒さに震えるだけだし
そう思いながらも
11月の空気に震える身体は
その場から離れようとしてた
その時、見ていた様に揺れる携帯
「あぁ…ここで連絡とか…」
ディスプレイに浮かぶ名前に
出るため息
フラりと寄るには重すぎるんだ
「…茉莉さん
どうしたんですかァ?」
〈呼ばれた気になって
違った?〉
いや、この人が じゃなくて
「…違わねぇ。
なァ、今どこ?家?」
俺の想いが。
『ここですよ?クロネコさん』
「茉莉さん!?」
いつの間にか近くなってた声
遮られた雨
振り返った先には
『久しぶり、クロくん』
相変わらず綺麗な笑顔
「相変わらず俺を驚かせるの
お得意な事で…」
『たまたま見つけただけだよ?
そしたら…あの時みたいに濡れてたから…』