第2章 おはよう
「ゆう、起きて。ほら、早く起きないと遅刻するぞ?」
「んん……ねむい……」
「昔のお前より今のお前のがずっと寝坊助だな」
「しつれいなぁ」
どっちも自分って認識だけど、そう言われるとなんだか悔しい。
仕方なくもそもそと布団から出て薄目を開けた。窓から射す光が眩しくてすぐにきつく瞼を閉じる。
「ほーら、起きろって」
「はあい……」
重い体を起こして目を開けると呆れた顔のセイが両手のひらを私に向けていた。
恒例のおはようのハイタッチ。
ぱち、と音を鳴らして両手を重ねると、セイは私の指の間に自身の指を滑らせた。
昔の彼が出来なかったことを、今の彼はとても積極的に行っている。以前は私がセイを困らせたり意地悪したりしていたのに、今は私の方がどきどきはらはらさせられている。
「ゆうの手、好き」
「遅刻するんじゃなかったの?」
「ゆうがもう少し早く起きてくれたら……もっと長く触っていられるのに」
「はいはい。また夜に、ね」
仕返しとばかりに微笑んで見せれば、セイは頬を染めて「えっどーいう意味!?」と乙女チックな反応を返してくれる。
「どういう意味でしょう?」
人差し指でセイの唇にちょんと触れる。
ベッドを降り悶える彼を置いて身支度にかかった。
セイは今日も可愛い。男らしくなるって意気込んでるところも可愛い。服を持ってきてどっちがカッコイイか聞いてくるところも可愛い。
私を「可愛い」って言って抱き締めてくれるところも、可愛い。
思い返してくすりと笑った。
「セイ。今日の天気は?」
「晴れのち曇り。傘はいらない。気温は──」
朝食を皿に盛り付けながら聞くと的確な答えが返ってくる。こういうところはさすがコンシェルジュって感じだ。
「セイ。掃除機お願い」
「オーケー」
セイが指を鳴らすとお掃除ロボットが部屋を巡回し始める。
本当は指を鳴らす必要は無いらしいんだけど、だってこっちのがカッコイイだろって得意気に話していた。