第6章 白き手指で描かるる流線
着物を乱したまま布団に横になり、二人して天井を見上げていると、翔の腹がきゅるると鳴いた。
「まあ、私を食べて満足されたのでは?」
顔だけを翔に向け、智がくすりと笑う。
「その筈だったんだが…、まだ食い足りなかったか…」
「え…?」
言いながら智の方に顔を向けた翔は、にやりと笑って見せる。
慌てた智は咄嗟に着物の前を掻き合せると、翔の視線から逃れるかのように背を向けた。
「こ、これ以上の無体は、私の身が持ちません」
それはこちらの台詞だ、と言いたいところを翔はぐっと堪え、気怠さの残る身体を無理矢理起こした。
「お師匠…さん?」
「湯を沸かして来る」
「それなら私が…」
言いかけ、身体を起こそうとする智を、翔は首を横に振って制した。
「でも、あの…」
尚も引き下がる気のない智に、翔は「遠慮をするな」と言いつけ、羽織を肩にかけ襖を開けた。
「遠慮なと…。私はただ、家屋敷が燃えてしまわないか、それだけを案じているのに…」
智はぽつり言うと、深くて長い溜息をついた。
そして、腰に重たさを感じながら身を起こすと、適当に掻き合せた着物の上に、翔の脱ぎ捨てられた着物をかけた。
その時、縁側でおすずがちゅんと鳴き、かさりと葉を踏むような音が聞こえた。
【白き手指で描かるる流線】ー完ー