第16章 小さな手
イタチは去っていくシスイの背中を追うように振り向いた。少し疲れているのか? 重たい足取り。腕や腰回りが、一回り細くなったように思えた。
「シスイ、絶対に無理はするな」
「ああ」
背中を向けたまま、手を上げて、「大丈夫だ」とアピールする。手を振るシスイ。
イタチは、シスイのことが心配だった。無茶をいつもする親友。イタチは苦い表情で去る背中を眺めていた。
……さて。どうするか。
「花奏ちゃん、少し遠くに行ってみないか?」
"誰かさん"に伝わるように、明るく大きめに言うイタチ。
ワザとらしいか……。だが、聞こえたはずだ。
「……ぁう、あ」
キョトンとして見つめ返す花奏。赤子が瞳を閉じて、まぶたを開けた時には、違う場所に移動した。
片手で印を結び、瞬身の術を使った。イタチは、あっという間に追跡者をまいてしまった。
「いつまでも見られるのはいい気がしない。だろ? あそこ、サスケだ」
指をさす方向に、大きなグラウンドが広がる。校庭の真ん中に、生徒と先生が授業を行っていた。
大きな丸の的に、子供たちが手裏剣を投げていた。
イタチと花奏は、アカデミーに来た。校舎近くに植えられた大木の枝に腰掛け、イタチは授業をのんびりと見ていた。
こんなゆっくりした時間は……初めてかもしれない。サスケの授業を見るのも、実は初めてだ。 木から見下ろす兄の表情は優しい。
イタチは決して恵まれた環境ではなかった。 アカデミー卒業は7歳。大戦の混乱が続く時代だった。
幼く身体が完全に作られていなくとも、実力があれば卒業する時代。
いまのサスケも、同学年の子ども達も、12歳までどれだけ優秀でも、卒業を認めない。
それは3代目猿飛ヒルゼンの教育方針だ。戦乱が落ち着いた今、基礎的な部分をしっかりと育成することが目的だからだ。