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短編集  Dear my precious…

第23章 夏祭り*黒尾鉄朗[ハイキュー]



カラッ コロッ

馴れない下駄で歩を進める。
独特な音が耳に心地よい。

いつも通っている道のはずなのに、服が違うだけでいつもと違う気分になれた。


角を曲がると、そこには見慣れた人が見慣れない姿でいた。

「クロっ!…クロ、浴衣なんだね!」

背が高く、浴衣も着こなしてしまう彼にドキドキする。
 
「お前もな。」

そう言うと、観察するように上から下まで見られる。

(…ちょっと、大人っぽくしたんだけどな。)

身長差25㎝。
しかも私は年下。
妹に見えなくもない。

それでもちゃんと恋人に見られたいから、黒字に桃色の蝶と花の散る柄の、いつもの私が着ないようなものを選んだ。

なんて言われるのか期待しながら、クロが口を開くのを待つ。

そしてクロは至極真面目にこう言った。




「…なんか浴衣って、一番脱がせやすそうだよな……」

「バカじゃないの。」

予想だにしなかった言葉に本音が漏れる。

それでも恋人である前に幼なじみであるから、クロはこんな私の反応にも笑う。

「まあ、冗談はさておき……

 奏、可愛い…いや。






 
 …綺麗だ。」

囁くように言われ、耳が熱くなる。


「バッ…バカじゃないの!?」

視線をさまよわせていると、またクロは笑って、
 

「それ、俺のため?」

わざと吐息を吹きかけるようにして、私を煽る。


「べ、別にクロのためじゃないし!ほ…ほら、行こっ!」


逃げるように祭りの方へ駆け出した。


…夏祭りは始まったばかり。

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