第16章 恋の歌②(輪虎side)
翌日から何故か物凄く忙しくなった。
毎日朝から夜遅くまで殿の屋敷で色々な雑務を頼まれ、何故か介子坊さんや姜燕さんの隊の練兵まで頼まれたり……
さらには王宮からの様々な書簡の処理まで押し付けられた…
原因は分かってる……例の三人だ。
「女は出来る男が好きだぞ。」
何て言われて「ん?」と思いながらも何となく流されるようにこなしていた。
お蔭でゆっくり会えるのは食事の時くらい。
それでも毎日葵は笑顔で見送って出迎えた。
ささやかだけどとても穏やかな時間…
でも10日程経った頃…
「んー?これじゃあいつらの思惑通りじゃないのか?」
ようやくあの三人、更には殿まで悪ふざけしていることに気付き呟いた。
「えっ?何か言った?最近、すごく忙しそうだけど大丈夫?」
少し心配そうに聞いてきた葵にまた意地悪したくなる…
「う~ん…それがさ~あんまり大丈夫じゃないんだよね~…」
「えっ!?本当?ちょっと失礼。」
驚いた様に僕の前に立つと額に手を当てられた。
「う~ん…熱はなさそうかな?やっぱり疲れてるんじゃない?」
そこまできいたところで座ったまま腰に手を回してぎゅっと抱きついた。
「あ、あの…?」
「だってあれから全然葵に触れてないからさ~そろそろ限界~」
戸惑う葵を見上げてニッコリ微笑むと赤くなっている。
「元気じゃない!!」
「え~…葵から元気もらわないとたぶん倒れちゃう~」
「仕事の方が大事だよね!?」
「んー?僕は葵の方が大事だよ~」
さらに笑みが深くして見つめた。
葵がヤバい!て顔して焦るのが分かった。
(勘がよくなったね。正解だよ。でも今すぐじゃないけどね…)
焦る葵を尻目に立ち上がると軽く頬に口付け、剣を持つと外に向かった。
「行ってきます。今日はここでいいよ。続き食べてて。帰りは遅いから先に休んでてね。」
思っていたことと違う行動をしたから呆気に取られているようだったけど、いつも通り「行ってらっしゃい!」と笑顔で見送ってくれた。