第12章 名前②(輪虎side)
それは深く…口内を…柔らかい舌の感触を確かめるように責め立て息をも奪う程に…
「ふぁ…輪虎様……」
(その表情や声…止められそうにないや…でも……)
「そろそろ『様』は止めようか。」
「へ……?」
ぼんやりしている葵には意味が分からないようだ。
「最初に言ったよね?名前で呼んでって…『様』も慣れるまでって…」
夜着の上から体の線をなぞると体を捩って逃げようとしている。
「やっ…待って……」
「名前を呼んでくれたら止めてあげる…」
思わずそう言ってしまったが、逃がしたくなくて夜着の裾から手を入れて太腿を優しく撫でた。
「あっ…輪…虎……」
涙目で見つめられるとどうにか名前を呼んでくれ手の動きを止めた。
初めて名前を呼ばれた事が嬉しくなるとぎゅっと抱き締めそっと囁いた…
「もう一回……」
「輪虎…」
その声にふっと微笑むと残念だけど今はここまでにしようと自分に言い聞かせた。
「よく出来ました。また介子坊さんの所に行かないとダメだから今はここまで…
だけど今晩、君の全部を貰うから…」
「ひゃっ……!!」
耳元で囁くと耳に口付けして離れたけど葵は物凄く変な声が出していた。
そんな葵をクスクス笑いながら見ると昨日の事を思い出して「介子坊さんに昨日のお返ししないとね~…」と言いながら出掛けた。
その雰囲気が危ない事に僕は気付いてなかった…
夕方、上機嫌で屋敷に戻った。
それはちゃんとお返し出来たから。もちろん、それだけじゃないけど。あはっ!
葵は今朝の事があったからか必死に僕と目を合わせないようにしていている。
そんな風に変に意識している方が僕を煽っていることに気付いてないのかな?とホント面白くてクスクス笑っていた。
暗くなると夕食を食べ湯あみをして、自分の部屋で少し雑務を片付けると葵のところへ向かった。
向かいながら見上げた空には欠け始めた月が浮かんでいる。
星もたくさん出ていて明日もきっといい天気…