第5章 自覚①(夢主side)
一歩先を歩く輪虎様が振り返ると優しく見つめられた。
「ねぇ、葵。笑って。」
「え……」
寂しさと恥ずかしさ、それに戸惑ってさっきから全く笑っていないことに気付いた。
「僕、葵の笑顔が好きなんだ。だから笑ってくれないかな?」
(そんなこと言われたら余計恥ずかしくて笑えないよ……)
「輪虎様…サラッとそういうこと言うのは反則だから…」
また真っ赤になって俯くとイタズラな声が聞こえた。
「う~ん…聞こえない~。」
そう言って私の手を握り直してまた歩き出した。
「だから、それは聞こえてるから!」
悔しくて少し拗ねてしまったけど初めて手を握り返した。
その手に気付くと輪虎様の横顔がとても嬉しそうになっているのが分かった。
そして、私も笑顔になってた。
(この手を離したくない…この笑顔をずっと見ていたい…)
初めてそう思った。
(あぁ…そっか…私、この人が…輪虎様が好きなんだ…輪虎様にとってこれは戯れや気の迷いなのかもしれないけど、それでも私はこの人に恋をしてるんだ……)
そんなこと思いながら輪虎様を見上げると優しい眼差しで見つめられていた。
(そんな目で見つめられると輪虎様も同じ想いだと勘違いしそう……)
顔が赤くなるのが分かって思わず目を逸らしてしまったけど自覚した想いはもう止められない…
空は綺麗な夕焼けを映し輪虎様の顔を赤く染めていた…