第35章 一歩②(輪虎side)
翌朝、信と貂が迎えに来てくれた。
信は僕と王宮へ、貂と葵は街へ出かけた。
王宮に着くと王賁、蒙恬、そして飛信隊副長の疎水、渕そして羌瘣がいた。
信から紹介されると皆一様に驚き、さらに凄い殺気を向けてきた。
そりゃそうだよね。みんな僕が殺しかけたんだから。
特に王賁、疎水の殺気は凄まじかった。
「何を企んでいる…」
王賁はここが戦場かと思うくらい睨んでくるし疎水は「貴様…よくのうのうとここに立ってられるな…」とワナワナしていた。
後で知ったが疎水は僕が暗殺したカク備千人将の副長だったらしい。
でも何も言わなかった。事実だったから。
秦国に…飛信隊に入ると決めた時からこういうのは覚悟していた。
すると信が入ってきた。
「確かにこいつに殺された将や仲間はたくさんいる。でもここにいるのはあの時俺らと戦った輪虎じゃない。
俺に討たれ廉頗の元を離れ、秦国に飛信隊に仕えると誓ったヤツだ。それに飛信隊が今以上に強くなる為に必要なんだ。
何かあれば俺が責任取る。色々思うこともあるだろうけど仲間として迎えてくれないか?頼む!」
そう言って信は頭を下げた。
ここまで信が思っていてくれたなんて正直驚いた。
「……僕からもお願いしたい。山陽での戦いについては何も言わない。あの時、僕は魏軍の将軍として当たり前のことをしたと思ってる。
でも、今は趙も魏も捨て、殿…廉頗将軍の元を離れこの秦にいる。信と大王に誓った。信に…この飛信隊に心より仕えると…」
そう言って僕も頭を下げると皆が息を飲むのが分かった。
しばらくの沈黙のあと最初に口を開いたのは蒙恬。