第34章 一歩①(夢主side)
こんなことを考えていたら季節はまた一つ進んでいた。
春を迎えた秦も魏と同じように春の花が咲いている。
その日、輪虎と街を歩いているとある露店で輪虎が立ち止まった。
「ねぇ、葵。これ…」
その声に振り返ると葵のイヤリングを見せられた。
それは魏で買ってもらった物によく似ている。
顔を近付けると思わず微笑んでいた。
輪虎がそれを手に取るとあの日のようにそっと耳に付けられた。
「可愛いよ。」
「ありがとう…」
それはあの日と同じ風景…輪虎の手が温かくて、輪虎の笑顔が見たくて、自分の気持ちに気付いて、ずっと側にいたくて……
微笑みながら見つめていると信の声が響いた。
「おーい、輪虎ー!」
振り返ると突然、抱き上げられた。
「ちょっと輪虎!?」
「街中でイチャイチャすんなって言ってるだろ!!」
「だからあげないよ。」
私も輪虎も信も……笑っていた。声を出して…
それは色んな偶然、奇跡の積み重なり……そしてようやく訪れた穏やかで幸せな時間…
青空の下、少し顔が赤くなりながら笑顔の輪虎に想いを紡いだ。
『ねぇ、輪虎。こんなこと言ったらきっと貴方は笑うんだろうね。
私が今ここにいるのは、タイムスリップしたのはただの奇跡じゃないと思うんだ。
ずっと現実が受け入れられなかったけど貴方に出会って初めてこの世界に来て良かったと心から思えた…だって出会うはずのない私達が出会って愛し合えたんだから…
だから、もう二度と離れない。秦の空に…この世界の空に紡いで行くよ…貴方と二人で……』
もう一度、笑顔で輪虎を見つめるとあの日と同じ抜けるような高い青空の下、私は愛しい人に抱かれ一歩踏み出した。
~fin~