第33章 抱擁②(輪虎side)【R18】
階段を上った先、とある部屋で待っていたのは政と呼ばれていた秦国・大王だった。
信の様子から待っていたのが大王だとは思わずかなり驚いて焦って跪いて拝手した。
「跪かなくていい。信から聞いたのだが本気で飛信隊に入るつもりか?」
顔をしっかり見るとさらに驚いた。その大王は信と変わらない年の少年だったのだから。
だけど瞳は信よりも力強いものだ…そう感じた。
「はい。どこまでお役に立てるか分かりませんが飛信隊に、信に心よりお仕えさせて頂きます。」
その力強い瞳を見ながら告げた。
「そうか…廉頗に思うところはないのか?」
その言葉に詰まってしまった。しばらく沈黙があったが信も大王も僕の言葉を待ってくれていた。
そして、ゆっくり言葉を紡いだ。
「ない…と言えば嘘になります。あの方は恩人であり恩師であり僕の全てを捧げてきた大将軍です…」
「輪虎……」
思わず俯くと信が声をかけてきた。その顔は複雑な表情だ。その顔に微笑んだ。
「でもね、信。あの戦場で君と剣を交えた時、戦乱の世の世代交代を感じた。君に討たれた時に僕の役目は終わったと思ってる。役目の終わった僕はもう廉頗四天王じゃない…それに、さっき君に飛信隊に来ないかと言われた時、思ったんだ…君の成長を側で見てるのも面白いな…って。何せあの廉頗将軍より上の大将軍になるんだろ?」
僕の言葉にまだ信は戸惑っていたが、大王が声をかけてきた。
「決まりだな、信。輪虎、飛信隊は強いが何せ将がこいつだ。周りがしっかり支えてやらないとすぐに殺られてしまうからよろしく頼む。」
「おい!政まで何言ってやがる!」
からかい交じりの大王の言葉にようやく信も笑顔になっていたが、この子は大王に対する口のきき方も知らないのかと違う意味でまた驚いて呆れ気味に信を見た。
「君は大王にまでそんな軽口を叩いているのか?」
「いいんだよ!俺は!」
すると大王はクスクス笑っている。
「輪虎、気にするな。こいつはいつもこうだ。」
「そういうことだ。」