第28章 帰還①(夢主side)
その日、輪虎の言葉を思い出しようやく起き上がると久しぶりに身なりを整え外に出て空を見上げた。
そこはもう秋の高い空…
その時、突然馬の蹄の音とたくさんの足音が聞こえた。
何事かと驚いて振り返ると廉頗将軍がそこにいた。後ろには姜燕様も。
あまりの驚きに声も出せずに立ちすくんでいると、ニヤリと笑われあの力強い目で射抜かれた。
「葵、久しぶりじゃな。」
(何で…廉頗将軍が?まさか…輪虎の死を知らせに来たの…?)
混乱しながらも思考を巡らせていると、次に告げられた言葉は意外すぎるものだった。
「葵…遅くなったが輪虎を連れ帰って来たぞ…」
それは初めて聞くひどく優しい口調…だけど言葉の意味が理解出来なかった。
「え………?」
そう発するのが精一杯だった。
すると後ろの馬車から介子坊様が誰かを抱きかかえて降りてきた。
何が起こっているのか分からなかったがゆっくり近付いて見えたその人は紛れもなく輪虎だった。
「輪…虎…?」
顔が真っ白で一瞬息をしてないのではと思って恐る恐る側に行くと静かな息遣いが聞こえた。
そっと胸に耳を当てると確かな鼓動が聞こえた。
あの日と同じ温かな血が流れる音…
そんな私の様子を見て廉頗将軍が言葉を紡いだ。
「輪虎は確かに討たれた。しかし相手は首を切らずにこやつをワシに返してきおった。
ワシも最初は死んでおると思っていたが微かに息をしておった。
大急ぎで治療させたが未だに生死の境をさ迷っている。
もしかしたらこのまま目覚めぬやもしれぬ。
しかし輪虎は葵、うぬの元に帰ることを切望しておった。そうじゃろ?」
そう言って私が渡したお守りを差し出してくれた。そのお守りには血と泥が染み付いている。