第26章 別離②(輪虎side)
運命の朝、空は厚い雲に覆われていた。
「やだな~…何か雨降りそう。」
何だか嫌な感じがして思わず呟いていた。
「輪虎様!いつでも出陣できます!」
側の副官は気合いがみなぎっていてその声にニヤリと笑った。
「よし!行こう。今日で終わらせるよ。」
兵達の士気も上がっていた。
そしてついに決戦の火蓋は切って落とされた……
苛烈な争いの中、ついに飛信隊・信と対決の時を迎え激しい雨が降り出した。
片手しか使えないとは言え信はこの戦いで確実に強くなっていた。
いや、今この対決の中でさえ強くなっている。
一撃、一撃が重くなりこの子やっぱり化け始めたな…そう感じていた。
信との戦いの中でいくつかの深手は負っていた。傷は痛んでいたがそんなこと気にはならない…
そんな中、信の斬撃を受けながらふと考えていた。
(信、王賁、蒙恬…僕が戦場に立ち始めてもう十数年…新しい芽が出始め六大将軍、三大天の時代は終わろうとしている…この戦乱の世も次の世代に変わり始めている…
そうなると僕の役目は殿が魏国に亡命した時に終わっていたのかもな…
それに、魏国に来てから毎日退屈だった。いや、あるいは自分の役目がなくなって存在価値すら見出だせなくなっていたのかも知れない…
そんな時に葵と出会った。あの子は僕にとって特別…きっと天の計らい……
悪いね、信…だから絶対に負けられないんだ…)
「殿、今そちらへ…葵、もうすぐ帰るよ…」
思わず微笑むとこれで決着だと思い信の懐に入っていった。
そこからはホントにすべてがゆっくりに見えた。
僕の剣は僅かに信を捉えられなかった。代わりに信の剣が僕を捉えてた。
不思議と痛みはなく持っていた剣が落ち、副官達の叫び声が聞こえた気がした。
「葵…ごめん…約束守れなかった…」