第25章 別離①(夢主side)
輪虎が笑顔で帰ってきて私を抱き締めてくれる…
その夢を毎日のように見ていた。
でも目が覚めると輪虎はいなくてまた泣きそうになる…その繰り返しだった。
昼間も気を抜くと泣いてしまいそうだったから常に何かをするようにしてた。
自分の馬の世話をしたり庭の掃除をしたり…下女に料理も教えてもらった。
帰ってきたら手料理を食べてもらおう。輪虎が好きな料理を作ってあげよう。
少しでも楽しいことを考えるようにしていた。お蔭でこの世界の料理の腕が少し上達した。
ある夜、私はまた眠れなくて庭に出て三日月を見上げて歌っていた。
それは離れてしまった恋人を想う少し悲しい歌…
(綺麗な三日月…輪虎も見上げてるのかな?今、何をしてますか?ケガしてませんか?戦況はどうですか?)
答えてくれない三日月を見上げてあの玉(ぎょく)を握り締めていた。
私の歌声も呟きも三日月しか聞いていなかった…
それでも、その三日月を厚い雲が隠そうとしていた。
翌日は朝から曇天だった。
厚い雲が太陽を覆い、昼間でも薄暗い…
輪虎が出陣して既に一ヶ月以上。その日も空に無事を祈っていた。
私がこの屋敷に来た頃に植えた庭の花はもうすぐ咲きそうだ。
「もうすぐ花が咲くよ…」
蕾を見ながら呟いた時、不意に輪虎から貰った葵のイヤリングが落ち割れてしまった。
「えっ………?何で急に……輪虎…?」
その時、声が聞こえた気がした。
『ごめん……』そう一言だけ…
辺りを見回したけど誰もいない…
何か分からないけど嫌な予感がした。
空は私の心を映すように雨が降り始めた。