第23章 約束①(夢主side)
「あの…輪虎…」
「ん?なぁに?」
「これ…持って行ってくれない?」
そう言って差し出したのは小さな巾着。
出陣すると聞いて大急ぎで作ったお守りだ。
古代中国にそんな風習はないだろうけどどうしても何かしたかった。
やっぱり輪虎は不思議そうに眺めてた。
「これは?」
「お守りって言う物。私の国にあった大切な人の無事を祈るおまじないみたいなものかな?」
「へ~お守り…玉(ぎょく)みたいなものだね。」
お守りをまじまじと見ると、刺繍した似顔絵とクローバーに気付いたようだ。
「この顔もしかして…?」
「そうだよ…輪虎のつもり。全然似てないけど…」
自分で作ったけど改めて見られると恥ずかしかった。
「ふふっ、葵には僕こんな可愛い顔に見えてたんだ。この反対側は前に言ってたクローバーだよね?」
「うん…戦場で輪虎に幸運が訪れますようにって意味で……」
「そっか…」
「あと、中にシロツメクサの押し花も入ってるの。花言葉は約束…だから、約束して!ちゃんと帰ってくるって…」
涙が溢れそうになったその時、ふわっと抱き締められた。
「うん…約束する。ちゃんと帰ってくるよ。ありがとう…明日、身に付けて行くね…」
その夜、輪虎はいつも以上に私を優しく抱いていた。
まるで私の全てを忘れないように…私が輪虎の全てを忘れないように…
お互い抱き締め合い、幾度となく「愛している」と囁き合いながら…
意識を手放した私の頬には涙が流れていた。
それは確かめ合った愛のものなのか、明日の別離のものなのか、そのどちらともなのか……
そのままきつく抱き締めながら最後の夜を越えた。
眠ってから輪虎は涙を流していた。それは誰も知らないこと…
そして別離の朝が明けようとしていた……