第22章 想望②(輪虎side)【R18】
そのままいつもなら眠っているが、さっきまで葵に触れていた手を見つめると心がざわついた…
そっと葵に夜着を着せ、布団を掛けると双剣を持ち庭に出た。
月明かりの中、流れるように剣を振り始めた。
(今日、何年か振りに人を斬った…命こそ奪わなかったがその感覚は忘れていなかったな…この剣でこの手で数え切れない程の人の命を奪ってきた。
初めて葵に見せた人を斬る姿…将軍として纏う武将としての空気…
そのどれもが葵の知らない僕…
葵の目にはどう映った…?恐怖?失望?)
そんな事を考えながら剣を振っていると視線を感じ、振り返ると葵がじっと僕を見つめていた。
その顔は少し悲しそうに見えた。
「葵……」
いつもの様に微笑んだつもり…
剣を仕舞いゆっくり葵に近付き頬を撫でた。
「剣を振るう僕は怖い?」
そっと葵の手が重なった。
その頬は、その手は温かい…僕の冷たくなった手に葵の温かさ、優しさが流れ込んでくるようだ…
「正直…あの時は別人かと思うほど雰囲気が違って驚いた。だけど、怖くはないよ。どんな輪虎も私が好きになった輪虎だから…」
その言葉に驚きと愛しさを感じるとそっと抱き締めた。
「ホント葵は優しいね。あんな僕を見ても好きでいるんだから…ずっと側にいないとね…」
「そうだよ…ずっと側にいてね…」
見つめ合い微笑むとそっと口付けた。頬に添えた僕の手はもう温かい…
葵…僕はいつかきっと戦場に行くよ。そして、剣を振るう。どんなに君が泣いても人を斬り命を奪うよ。
それは僕か武将だから。殿の為に戦場に立ち続けてきた廉頗の飛槍だから。
僕の生き方は変えられない。それはきっと君も…
それでも君の全てを受け入れてこれから歩いて行くよ。君のその温かな手を握って…
だけどそんな僕の想いを裏切るように運命は過酷なものへと変わろうとしていた。
空は嵐を呼びそうな雲の流れだった…