第1章 1
虫の間を通り抜けて、花火を見に行こう。
藪も風鈴も焼き鳥の煙も、全部かき混ぜて突き抜けろ!
暗くなった周りに、ぼんやりと光るちょうちんの明かりがゆうらり、流れ出すみたいに浮かんでいる。
そんな明かりに照らされてる君はかわいい。
落ち着いた色の浴衣にきりっと黄色い帯締めて、いつもは流してる髪を高く纏めたりなんかして、
そんな姿で夏の入道雲の下に立ってた君を見たもんだから。
日に照らされて白いうなじなんかに僕はクラクラしちゃった訳で、
いつも晴ちゃんのことバカにしてるやつらにこの綺麗な姿見せびらかしてやりたい、いいや絶対見せてなんかやるもんか!
何しろ君のそんな姿はミリョクテキすぎる、ほらもう、僕なんか完全に君にメロメロであります。
その落ち着いた色の浴衣は、晴ちゃんの体の細いラインを強調していると見せかけて、実は晴ちゃんの白い顔や手をくっきり目立たせている。
みどりの黒髪、ほっそりした紺色の襟のライン、そんな色に囲まれた君の顔や指なんかがチラチラ僕の目の端に入っては僕の胸をドキドキさせるんだ。
君はなんて無邪気に僕のこと信じてるんだろう。
そんなきらきらの目で僕を見て。
僕は君にはかなわない。
僕はうっかりそのまなざしに降参しそうになって、あわてて気をしっかり持ち直した。
今日は僕がちゃんと君をエスコートするって、約束した。から。
遠くに光る誘蛾灯に向かう人の波をすり抜けて祭を抜け出す。
藪も風鈴も焼き鳥の煙も、全部一緒くたに突き抜けて。
息を切らし抜け出した草だらけの空き地、立ち止まって顔見合わせてちょっと笑って。
途中で買ったりんご飴を二人口に寄せて歩く。
僕は青いの君は赤いの、まるで学校でやってる男子と女子の色分けみたいだって笑う君のその口元。
赤い赤いその飴がグロスみたいにつやつや光って、なんだか君はますます大人びて、僕は口の中があんまり甘くって、
僕はもうのどがからからになってしまった。
赤い赤いりんご飴。
赤い赤い君の唇。
* * *