第3章 アヅチジョウヘ
傷は2年生の最後の予選大会の一週間前のロードワーク中に、後ろから走ってきたトラックに衝突した
衝突とはいえ、そこまで大事には至らなかったものの、脚は使い物にならず全治3ヶ月と言われた
傷痕はその時の手術の跡だ
暗い顔で告げる父の顔を今でも覚えている
泣くのを必死に堪え、笑顔で大丈夫だよと、泣き出す後輩を宥める情景が鮮明に清香の頭をよぎった
それでも、大会に出れず、補欠の選手の隣で松葉杖を抱え、応援しかできない悔しさと悲しさで溢れた清香の心は誰も拭いきれなかった
松葉杖の助けがなくても歩けるようになり、練習を再開したものの、後遺症のせいか、右脚の痛みは消えず、跡も消えなかった
部活を退部し、大学からの推薦も取り消されてしまったのだった
「清香様、信長様がお呼びです」
余韻に浸っていると、外から女中の声が聞こえた
「信長様が?分かりました」
(よし…でるか)
寝巻きに着替え、羽織を羽織ると濡れた髪を左で結って信長が待つ天守へと歩いていた
「信長様、清香です」
「入れ」
「失礼します」
襖を開けると優雅に酒を飲み、月を見上げている信長がいた
信長の近くへと座り込んだ
「何か御用でしょうか?」
「あぁ、中々寝付けなくてな。お前に夜伽を命じようと思ってな」