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ビタンズの惨劇

第6章 戦争



「戦…ですか」
「そうだ」

ヤーシュ様は戦争に行くことになった。
この領地では一番お偉いヤーシュ様であるけれども、お国全体から見てみれば、たくさんいる公爵様のお1人でしかない。
お国が戦争をする時は、ヤーシュ様はしばしばこのように駆り出されるのだ。

このビタンズの街は、ちょうど隣国との境にある。 だから街をぐるりと囲む壁はそれなりに大きなものだし、人口の3分の1の人は軍隊関係のお仕事をされている(らしい)。
隣国となにかあればすぐ最前線になるのがこの土地だ。だからそこを治めるヤーシュ様の戦の腕前はなかなかのもの(らしい)。
一部では「戦神」と呼ばれているとかなんとか。
それより私の田舎では「流血公爵」と呼ばれる方が多かったけどね。

このあたりの国はヤーシュ様をたいそう恐れているらしく、戦いを仕掛けてくるようなことは全くない。
だから今回ヤーシュ様が向かうのは、ここよりだいぶ南の方の戦地で、移動だけでも大変なのだそうだ。

「長くかかるのですか」
「まあ1,2ヶ月であろうと考えている」
「そんなに…」
「不安か」
「はい」
「…ボクがいない間は使用人の部屋に戻っていろ。ボクの部屋にいるよりは、その方がむしろ安全だろう。それでも怖いというのなら、護衛をつけるが」
「私は私の体ではなく、ヤーシュ様の体が心配なのです」

ヤーシュ様は、珍しく驚いたような目をして私を見た。

「ボクの体を心配した女はお前が初めてだ」

そう言ってクリクリと私の頭を撫でまわす。

「案ずるな、それほど大きな戦ではない」

ヤーシュ様の目が、まっすぐに私を見据えた。私も彼の視線に応え、どちらからともなく、口づけた。

「 1,2ヶ月もの間…お前に触れることができない」
ヤーシュ様は私の首すじにキスを落とし、体に手を這わせた。

「今宵はじっくりと堪能させてくれ」

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