第29章 捕われた子猫
口に入れられていた上着を放って、しばらく抱き合ったまま、キスを繰り返す。
するとドアをノックする音が聞こえ、次の瞬間そのドアが開かれかける。
急いで布団を被り、身体を隠す。(でも秀一さんは隣に寝転んだままだ)
看護師さんがわたしの名前を呼びながら入ってきて、呆れたように溜め息を吐かれる。
「葵さーん・・・」
「はいっ・・・」
「・・・彼氏さんか旦那さんか知りませんけどね、ここは患者さんのベッドですから」
「別にいいだろう?誰にも迷惑はかけていない・・・こっちは昨日から一睡もしていないもんでね・・・」
「すみません・・・」
「そういう問題ではありません。検査結果出ましたよ、問題無かったのでお帰り頂いても結構だそうです」
「よかった・・・ありがとうございました・・・帰りましょう、秀一さん」
「ああ・・・」
身支度を整えて、病院を出る。タクシーを拾って、工藤邸へ向かう。
窓の外を眺めていると、ふいに手を掴まれてドキッとして・・・特に何も言わず、手を繋ぐ。
しばらくすると隣から寝息が聞こえてきた。
秀一さんの寝顔はやっぱり少し可愛く見えて。めちゃくちゃキスしたい衝動に駆られるけどタクシーの中なのでそれは堪える。
でも幸せな空気を感じられていたのは、ほんのひととき。
わたしがベルモットに攫われてから一体何が起こっていたのか、組織の奴らはどうなったのか、では宗介さんは・・・?と再び頭の中はそれでいっぱいになってしまって・・・
繋いだままの秀一さんの手を切なく握りしめる。
タクシーは米花町に入った。あと少しで工藤邸だ。