第28章 烏羽色の尻尾
すぐに宗介さんに会えなかったら、わたしはトイレの後玄関へ戻らず迷ったフリをして建物の中を探し回る。秀一さんもわたしを探すフリをして建物の中を動く。その時は二人して同じ場所は探さないように、動き回る順番も・・・
念の為色々考えてはいるんだけど、宗介さんがわたしをここに来るように仕向けたのだ。来訪者には敏感になっているはず。すぐに会える可能性が高いとは思う。
パンを食べ終え、ぬるいコーヒーを喉の奥へ流し込み。車で今来た方へ戻り、建物の立つ敷地内に入った。
車外に出て、建物の全体をまじまじと眺めると・・・二階の窓の中からこちらを見ている人影が見えた・・・でも多分、宗介さんじゃない。
昴さんと共におそるおそる玄関へ向かい、呼び鈴のようなものが無いかキョロキョロと見回す。
すると、扉が開き。
中から宗介さんが顔を見せた。
ニッと微笑むその顔が、一年前と変わってない事に物凄く安心して・・・涙が滲んでくる。
「早かったな。さすが俺の教え子だ」
「そ、宗介さん!もう!なんで・・・なんで」
「・・・沖矢くんも一緒か。まあ、入れ」
中に迎え入れられ、リビングのような部屋に通される。
そこには他にも数人の男性がおり。その全員に無言でじっと視線を浴びせられ・・・正直居心地は良くない。
宗介さんに聞きたい事、言いたい事、山程あったのに、言葉が上手く出てこない。
昴さんと並んで椅子に座らされ、テーブルを挟んだ目の前の席に、宗介さんが座る。
「心配かけたよな。悪かった・・・葵、沖矢くんも」
「いや・・・あの・・・でも、元気そうで、良かったですけど・・・」
「ああ。葵もな」
温かいコーヒーを出され。宗介さんがこうなった経緯を話し出す。
元はと言えば宗介さんは、行方の分からなくなった知り合いを探す為、その知り合いと関わりのあったと思われる“組織”を調べていたのだが。
その知り合いは、わたしに見張れと伝えてきたあの店に寄った後に消息を絶ったと分かり、宗介さんはその周辺を調べている内に“組織”の人物に目を付けられていたようで・・・
その人物により拉致されて、ここに連れてこられたそうだ。
ここにいる宗介さん以外の人達も、それぞれ“組織”を嗅ぎ回っている時に、同じ人物に拉致されたそうだ。