第2章 立待月
飲んでいたビールもなくなり、テレビも点いているだけで、特別観たい番組がある訳でもない。
沖矢さんは窓から外を眺めている。
「月が綺麗ですよ。部屋で空でも見ながら飲みますか?」
「・・・ほんと!そうしましょ!」
「今日はかおりさんの部屋にしますか」
「赤ワインがいいなっ」
キッチンまで走り、ワインセラーを覗いて、どれにしようかとワクワクしていると、沖矢さんはクスクス笑いながらビールのグラスの片付けをしてくれていた。
「すみません・・・つい嬉しくなっちゃって」
「いいんですよ、そんなかおりさんが可愛いくて僕は好きです」
「そんな・・・」
「さ、早く選んで行きましょう」
窓際にソファを寄せて、ベッドの横の小さなテーブルも持ってきた。
ここで昨日衝動買いしてきたキャンドルがいきなり役に立つ。
火を点けて、部屋の明かりを消すと、雰囲気たっぷりだ。
赤ワインを注いだグラスを合わせる、その音までロマンティックに聞こえる。
「十五夜って今くらいでしたっけ?」
「それはもう終わってますね」
「なーんだ。でもすごく綺麗」
「秋は月が一番綺麗に見えるそうです」
「うん。本当に綺麗」
「日本人は月を愛でますが、ヨーロッパだとまた違うんですよ」
「そうなんですか?」
「月は人間を狂わせると思われていたそうです」
「へえ・・・沖矢さんって物知りー」
グラスをくるくると回し、ワインを口に含む。
グラスの中が少なくなると、沖矢さんが注いでくれて。
こんな風に男性とゆったり夜を過ごすのって初めてかもしれない。
やっぱり沖矢さんがわたしより大人だからか?
「・・・こんな素敵な夜の過ごし方もあったんですね」
「僕も最近ですよ、こういう事をするようになったのは。女性とこんな風に過ごすのは、あなたが初めてですし」
「うそ・・・?」
「嘘じゃありません」
「なんか・・・うれしいです」
「僕も、かおりさんが喜んでくれると嬉しいです」
髪を撫でられ、頬に手が添えられて、唇に触れるだけのキスをされた。
・・・わたしはどうかしてしまったんだろうか。
少し触れられただけなのに、沖矢さんが欲しくてたまらなくなる。
今わたしは、彼の膝の上に座り、背中に手を回して、自分から口付けている・・・