第16章 胸に秘めた
「最近そのカバン、よく使ってますね」
帰る途中の車内で、昴さんが言う。
わたしが安室透と出掛けていたときに目に止めて、跡をつけていた昴さんがコッソリ買ってくれたものだ。
「汚したくないし使うの勿体ないって思ってて。でも使わなきゃ意味無いよなーって最近」
「そうでしたか。あまり出番が無さそうだったので・・・でも安心しました」
「なんか懐かしいなぁ・・・」
「僕はつい最近のことのように思い出せますけどね・・・久しぶりに今からお買い物、行きますか?」
アウトレットモールに寄り道して帰ることになる。
女性服の店ばかりが並ぶ所にも、昴さんは嫌な顔ひとつせずにずっとついてくる。
店に入って一緒に服も選んでくれるし、今日に限らず毎度のことだが会計は全て昴さんに強引に支払われて。
ちなみに秀一さんは死んだことになっているが、お給料はきちんと毎月頂いているらしい。
いくら貰ってるかなんて、面と向かっては聞かないけど、ネットで調べたら、FBIの初任給は年収で600~700万円なんだと。
そのエーススナイパーともなれば・・・秀一さんはもしかするとかなり稼いでいるのかもしれない。
「かおりさん、ここも寄りましょうか」
「いや・・・ここはまた一人で来ますから」
「僕が選んだものを、かおりさんに身に付けて欲しいんです」
「・・・これは、断れない感じですかね・・・」
昴さんが、ランジェリーショップの前で脚を止めたのだ。
ここにまでついてくるのか。
「かおりさんはこういうの好きそうですね」
「すごい!わかるんですね」
男性とこういう所に入るのは初めてだ。
昴さんは涼しい顔をして陳列された下着を眺めている。
「でもたまにはこういうのもどうですか」
「それ・・・昴さんの好みじゃないでしょ」
「おや、分かりますか」
昴さんの手に取られたのは布の面積が少ない赤のレースのTバック。
秀一さんが好きそうだ、と直感的に思った。
「こんなの履いたことないなぁ・・・」
「かおりさんの白い綺麗なお尻に、よく似合うと思いますよ」
「そーいうこと大きい声で言わないでください・・・」
結局昴さんに言われるままに選んだものを数着買ってもらい、帰宅した。