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短編

第3章 【黄瀬】夢の夢




川の横に造られた遊歩道。幅の広い道にはオブジェ代わりか、はたまた遊具の代わりか、大きな岩が点々と置かれている。
この場所は子供達の笑い声がよく聞こえる。車も通らないし川もあるし良い遊び場なのだろう。

黄瀬くんはその長い脚を伸ばして岩から岩へと飛び移る。
私も真似して後を追うけれど彼のようにひょいひょいとは渡れず時々バランスを崩してよろめいた。

バスケの話をしながら一定のペースで私たちは進む。このまま遊歩道の終点まで岩場を進んでいくのかと思っていた私は、急に岩の上で立ち止まった彼の背中にぶつかる。

わ、落ちる…!

咄嗟に掴んだ彼の腕はがっしりとしていて太く力強いものだった。

「っと、大丈夫すか?」
「ごめん…びっくりした…」

不安定な足場に密着した状態で立っているためバランスを取る足が震えた。そんな私に足場を譲るように黄瀬くんが地に降り立つ。
彼にとってそうするのが当然なのか、手を差し伸べてくれる。
私はその手を取って岩から降りた。

「どこ行こうか」
「俺んちはナシっすよ」
「ええー久々に行きたい」
「だーめ」

黄瀬くんは私の斜め一歩前を歩く。私たちが横に並んで歩くことは少ない。それを黄瀬くんが望んでいないからだ。
彼はいつからか私に悟られないように、少しだけ距離を置いている。まあそんなの私にはお見通しなんだけど。
もっとわからないようにしてほしいな、なんて思う。地味に傷つく。

黄瀬くんに反撃でもして困らせてやろうと画策して、先程触れた彼の腕に絡みついた。

「な、なんすか、急に」
「ふふふー黄瀬くんち行こ」
「はあ!?だめだってば」

逞しい腕を引いて彼の家の方へと早足で歩を進める。黄瀬くんは案の定困った顔しながら抵抗した。
けれど、女の子に弱いこの人は強く拒否することも出来ず、結局は私に引かれるまま歩くしかないんだ。

可愛いなぁ。この辺で勘弁してあげようと小さく笑って彼を解放した。

「冗談だよ。アイス買って食べよ」
「はぁ…アイスね。奢るっすよ」
「私が奢るよーバイト代出たし」
「いやいや。女の子にお金出させたら男として、っあ、」
「雨だ」

ぽつり。
額に当たったそれは、あっという間に数を増し遂には全身に降りかかる。突然の土砂降りに私たちはきゃあきゃあ喚きながら屋根のある場所を探して走った。

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