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「恋ひ恋ひて」

第1章 無口な恋人


男はペラペラしゃべくる奴より、無口な方が良い。というのは祖父の口癖だったが、無口過ぎるのはどうかと思う。
私の恋人、真選組三番隊の斉藤終は、まったく喋らない。
そう、喋れないのではなく、喋らない。
2人でいても、私が喋り、彼は頷くだけ。
目を細めたりはするので、つまらないわけではないと思うのだけど、なんだか気後れしてしまうのも事実だ。
仕事が忙しくなかなか逢えないのだから、その間のあれやこれやを知りたい、知ってほしいというのは、普通の事だと思うのだけど。
もちろん、一般市民の私に、言えない仕事内容なのは分かってはいるが。
堂々巡りの考えに、小さくため息を吐いた。
それに応えるかのように、終が振り向く。
彼は私の部屋で鏡台を前に、オレンジ色のアフロをドライヤーで乾かしていた。
赤い瞳が、どうかしたのかと問う。
私は首を振り、ベッドから立ち上がると、終の手からドライヤーを取り、ふわふわの髪にあてた。

乾かし終わった髪に顔をうずめる。
くすぐったさと、久々に逢えている実感に頬が緩む。
「ねぇ終」
髪の中で言葉を続ける。
「私の事…好き?」
きっと、答えは返ってこない。
少し目を見開いて、ちょっと困ったように眉が動いて、キスをされて、それが答えの変わりに、いや、彼なりの返事になるのだ。
…と、くるりと向きを変えた終が私を抱きしめた。両手で頬をはさまれて、互いのおでこがぴたりと付く。
「あの、終…」
私の言葉は終の唇が止めた。
「愛してるよ。」
聞こえた声に、全身に電気が走った。
「終、今…」
大げさじゃなく、震える私の体を優しく抱きしめる終は、もう黙って微笑むだけだ。
お祖父ちゃんの言うとおり、やっぱり男は無口な方が良いのかもしれない。

解説

「恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うるわ)しき言尽くしてよ長くと思はば」
『何度も恋いてようやく逢えたその時ぐらい愛おしむ言葉をかけてください。この恋が長く続くようにとお思いならば/大伴坂上郎女/万葉集』
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