第2章 映し鏡(佐伯)
「あら素敵。ぜひお願いしたいわ。ねえ?」
マニュアルがあれば、家でしっかり練習ができそうだ。
もちろん、銘柄がわかれば、料理人や家政婦が上手に淹れてくれるだろうけれど、この人の飲むお茶は自分で淹れてあげたい。
「そうだね。俺としては、アリスが淹れてくれればもう言うことなしかな」
「そんなこと言ったからには、私が完璧に淹れられるようになるまであなたに全部飲んでもらおうかしら」
「これはこれは。ごちそうさまです」
……いけない、つい家で過ごしているときのようにしてしまった。
笑ってごまかすと、店主も心得たもので、すぐ話題を変える。
「本日は、お子さん方のご希望とのことでしたが」
「そうなんだ。『ともだち』探し、というかね……」
微笑んでいた夫の顔が、わずかに曇る。
薄い茶色の前髪が、さらりと下に流れた。
「……息子は、体が弱くて。なかなか外にも出られず、人付き合いも少ないものですから、せめて慰めになればと思って」
後を引き取って、私から少し事情を話す。
「店主さん。そういう子にあった少女《プランツ》って、いないものかしら」
「そうですね……」
店主があごをするりとなでる。
考えていると言うよりは、どう説明しようかと言った風情。
「そもそも少女《プランツ》は、ひとを癒す、という用途で作られているものではございませんので、そういう意味ではご期待には応えかねますね。
ただ、少女《プランツ》がきっかけで病から立ち直られた方や、心の均衡を取り戻されたお客さんはいらっしゃいますよ」
「まあ!」
思わず、私と夫の腰が浮く。
「もう少し詳しく教えてもらえないかな?」
「守秘義務もございますので、そこまで詳しくは……」
やんわりと断りを入れる店主の言葉は、半ばで遮られた。
* * *
「わああ!!」
子供たちの叫び声に、俺と妻はぱっとそちらに顔を向け、立ち上がる。
悲鳴と言うよりは叫び声、駆け寄らなくてはならないほどではなさそうだけど……
声のしたブースでは、子供たちが身動きに困っているようだった。息子の背中に、見慣れないフリルと白い手が見える。……手?
妻と二人、子供たちに歩み寄る。