【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第16章 葡萄色 - ebiiro -
「うん。だよな…、噂の出所の調査と火消しは行っているが、なんせそれどころではなかったから手が回ってない。その間にお前の領地にまで広がったみたいだ。すまん。」
「…秀吉さんが謝る必要はありません。それに、この噂の出所はどうせ萩姫だ。あいつがどういう意図でこの噂を流したかしらないけど。」
あまりにも理解出来ない話だった。
どういう思考回路でこんな話を思いついたか知らないけど、俺が萩姫との間に子を成すなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。身に覚えがないんだから、萩姫が本当に懐妊していても俺との子じゃないのはあまりにも明白だ。
こんなにすぐ嘘だとばれるような噂…、
「一応、亜子の耳には入らないようにしてある。」
「え、」
「お前たち恋仲になったんだろ?」
「…なんで知ってるんですか、」
「お前…、単身あいつを助けに乗り込むなんてしておいて、周りにばれないとでも思ってるのか?…それに戦場で甘い雰囲気を出していたと信長様まで仰っていたぞ。」
「大きなお世話ですね。」
でも、これは秀吉さんに感謝しなきゃならない。
いくら想いが通じ合ったとはいえ、あの子がこの話を聞けば不安にさせてしまうだろう。余計な心配をかけるくらいなら、こんな噂を耳にしない方が良いに決まってる。
「…領地の噂、すぐに火消しをします。」
「萩姫が懐妊しているかどうかもすぐに調べる。お前の子ではなくとも、あいつがそうだと言い張れば少し厄介だからな。」
「ありがとうございます。」
「ああ。それより、引き留めて悪かったな。」
早く亜子に顔を見せてやれ。
そう言われて、体の熱が上がるのを感じる。三成以外に、自分の気持ちもあの子の気持ちも知られているのは気づいていたし隠すつもりもないけど、何も言ってないのに恋仲になったのまで知られているのは、少し気恥ずかしい。
まあこの城の武将相手に、
ばれないでいる方が難しいか。
このわけの分からない噂と、萩姫のこと、どれも取るに足らないこと。今、手にしたばかりの幸せを、簡単に壊すことができるはずがない。
この時の俺はまだ漠然とそう思っていて。
何も気づけていないままだった。
戦に行く前と後と、
少し変化した俺たちの関係が、
それをさらに
見えなくしてしまっていたのかもしれない