【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第16章 葡萄色 - ebiiro -
「ようやく開戦か。待ちくたびれたぞ。」
「俺たちの足、引っ張るなよ。」
「それは、あり得ないことだな。手違いで切り落とすことはあるかもしれんが。」
こいつと肩を並べるなんて不本意だけど、
今は早々にカタをつけて早く安土に帰りたい。
こんな事を思いながら戦に向かうなんて思っても見なかった。今までは野望を胸に抱いて、ただそれだけにこだわってきたのに…。今は野望以上に、
守りたいもの
それが頭に浮かんでいる。
不安に思っているだろうあの子を、無事に早く帰って抱きしめたいなんて。
「…始めるか。向こうも待ちかねているようだ。」
「そうみたいですね。」
武将たちは敵陣に向かい、各々の目を細めた。
黒々とした人だかりの前方には、顔に傷の走る大男の姿がある。刀を抜き放つと、ほら貝の音が響くのを合図に飛び出し、戦にその身を投じた。
敵と刀を交え、
矢と矢の間を走り、
銃声や雄叫び、悲鳴に振り向きもせず、
真っ直ぐに前に進んだ。
亜子の笑顔は心の奥にしまいこんで。
「顕如様、もう無理です、今すぐお逃げ下さい!」
「悲願を目の前にして逃げる事など出来ん。お前達は先に行け。今ならまだ逃げることが出来る。」
「何を仰るのですか、私達だけで逃げるなど出来るはずがありません。」
「私はこの戦で散るのだ。お前達は命を無駄にするな。」
「もとより覚悟の上です。ですが、顕如様が居なくなられては残った門出達も路頭に迷います。今すぐお逃げ下さい。それが私どもの願いです。」
「……お前たち、」
「信長様、先ほど顕如の姿が消えました!味方を盾にして逃げたものと思われます!」
「ほう、 逃げたか。」
「どうされますか?」
「捨て置け。あの男の執念は深いだろうが、もう力は残ってないだろう。ひとまずこの戦を終わらせる。」
「はっ」
「亜子!」
「秀吉さん、どうしたんですか?」
「戦が終わった!信長様たちは3日後には帰還される。みんな無事だ。」
「…っ、」