第13章 託された夢の色 ~荻原シゲヒロ~
彼の事は、いつもあの人から聞いていました。
中学は別になってしまったけれど、強豪校でレギュラー入りした凄いヤツ。
中学最後の夏、決勝という場でやっと対戦の約束が叶うのだと嬉しそうに話すあの人の笑顔が今でも焼き付いています。
そしてその笑顔が歪み、バスケが大好きだという気持ちごと絶望に塗り潰されてしまった姿も同様に。
彼とは対戦が果たせなかっただけでなく、彼の所属するチームメイトとの戦いを経て、あの人はバスケを喪ったのです。
彼のせいではないとわかっていました。それでも彼に実際に会うまで、私は彼の事が嫌いでした。
だって彼の、彼のチームメイトのせいであの人はバスケを辞めて、私を置いて遠くへ行ってしまった。
なにもできずに見ているしかなかった自分が嫌で、勝手に八つ当たりをしていたのです。
今思えば恥ずかしい限りですね。
試合の終わりを告げるブザーが鳴ったとき、私はあの人しか見ていなかったから、彼があの人と同じ様な眼をして慟哭していた事に気が付かなかったのです。
試合から暫くたって、彼があの人を訪ねて来ました。
そこであの人のチームメイトだった持田さんと彼が話すのを聞いて、あの人が彼にバスケへの想いと私を託した事を知りました。
そこで初めて彼を見て、その眼に宿る絶望に驚きました。まるで最後に見たあの人のようでしたから。
そして持田さんから告げられたあの人の言葉に、少しの希望と強い意志が灯ったのを、私は見逃しまでんでした。
ああ、これがあの人が信頼し私を託した人物。私の認識は一瞬でひっくり返りました。
私に出来る事は些細な事でしかないですし、もしかしたらその時には私は居ないかも。
それでも彼は私に夢を見せてくれるのです。
彼と共にある事で、また笑顔のあの人に会える日が来る、そんな素敵な夢です。
彼ならきっと夢で終わらせないでしょう。だってあの人が信頼した方ですもの。
だから私は私の持てる力の限り、彼の一番そばに居たいと思います。
え、私ですか?
すみません、自己紹介もしてませんでしたね。
私はリストバンド。片割れはあの人が持っていますが、意志が宿ったのは何故か私だけ。不思議ですね。
ふふ、あの人と彼は、私がこんな事を考えてるなんて知ったらどうするでしょう?
二人がまた会うのが、とっても楽しみです。
fin
→あとがき